5万円から始まった、小国の古民家再生物語
きっかけは、5万円の古民家
友人の親戚が所有していた、小国の一軒家。
持ち主が亡くなったあと空き家となり、一時は老人施設に貸していたものの、3年契約の予定がわずか1年で退去。
このままでは家が荒れていくだけだと、所有者も困っていました。
そこで冗談半分に、
「それなら、ちょうだい」
と言ってみたところ、返ってきた答えは「いいよ」。
とはいえ、さすがにもらってしまうのは申し訳ない。
そこで、5万円で譲ってもらうことになりました。
ちょうどコロナ禍で仕事も少なくなっていた頃。若い社員をただ休ませておくのももったいない。
この家を直しながら、普段の専門分野だけでは経験できない建設業のさまざまな仕事を覚えてもらおう。自分の仕事だけでなく、その前後にどんな仕事があり、どうつながって建物ができていくのかを実際に経験してもらおう。
そんな若手育成の実践の場として、古民家改修が始まりました。
同じ頃、「せっかくだから古民家改修をYouTubeにしてみよう」と撮影もスタート。
……こちらは解体あたりで終了しました(笑)。
見た目は普通。でも家が20cm傾いていた
最初に見たときは、それなりに綺麗な家でした。
ところが、よく調べてみると、道路側から裏の田んぼ側へ地盤に高低差があり、建物そのものも約20cm傾いていました。
あちこちを少しずつ壊しながら調査してみると、束が束石から浮いているところまで。
まずは、この傾きをなんとかしなければなりません。
床を剥がし、天井を解体し、建物の状態を確認しながらジャッキを掛け、少しずつ建物を起こしていきました。
ただし、名義変更が終わったのは秋。
作業を始める頃には、小国は冬を迎えます。
雪の重みが建物にかかるうえ、床下の地盤もぐちゃぐちゃ。
ジャッキを使って建物を起こす作業は簡単ではありませんでした。
そもそも昔の建物です。現在のように均一に製材された木材ばかりではありません。
数字だけを追って完全な水平を目指すのではなく、建物全体の状態を確認しながら、おおむね水平な状態まで少しずつ起こしていきました。
床を剥がして分かった、もう一つの問題
床下がぐちゃぐちゃだったのには理由がありました。
道路側にある消雪パイプの水が建物の床下へ入り込み、そのまま裏の田んぼ側へ流れていたのです。
そこで1階は思い切って間仕切りも床も撤去。
土を均し、砂利を敷き、防湿シート、スタイロフォーム、鉄筋を施工。最後はポンプ車を呼び、1階全面に生コンクリートを打設して土間にしました。
その土間を基準に、柱まわりや土台まわりも少しずつ固定して、建物を安定させていきました。
消雪パイプだけじゃない。流雪溝との戦い
小国の水問題は、床下だけではありませんでした。
道路脇には、雪を流すための流雪溝があります。
ところが、下流で大量の雪が詰まると水があふれ、家の前まで水浸しに。
玄関もびしょびしょになっていました。
そこで道路側の外壁にかぶせるように、道路面より約30cm高い基礎を新設。 道路と建物の間にもコンクリートを打ち、水の侵入を防ぎました。
浸水していた元の玄関も、基礎で固めて封印。
玄関そのものを別の場所へ移すことにしました。
雪下ろしをしない家へ
次に考えたのが、小国の大量の雪です。
毎年屋根に上がって雪下ろしをするのは大変です。
初年度は大屋根にも登り大変でした。
幸い、もともとの屋根はかなりの急勾配。そこで屋根材を張り替える際、雪止めアングルを付けず、雪が自然に落ちる屋根にしました。
ただし、玄関の位置を変えたことで新たな問題が。
そのままでは、落ちてきた雪で新しい玄関が埋まってしまいます。
そこで新しい玄関まわりにはウッドデッキを作り、その上に屋根を設置。
実際に冬を迎えると、落ちた雪で玄関まわりはまるで「かまくら」のようになりました。
地元のおばあちゃんには、
「小国をわかってないねぇ」
と言われましたが(笑)、結果はまったく問題なし。
むしろ大変だったのは、家になかなか行かなかったとき。
屋根の雪は勝手に落ちてくれますが、駐車場には普通に雪が積もります。
久しぶりに行くと、道路から玄関へたどり着くまでが大仕事になっていました。
2階は「古民家改修の醍醐味」を残す
2階は既存の間仕切りをすべて撤去し、大きな2部屋に作り直しました。
一つは、焼杉を全面に張り、黒い梁や野地板をあえて現しにした、黒を基調とする古民家らしい空間。
もう一つは、カフェ板を全面に張り、建物の強度を高めながら木の表情を楽しめる明るい空間。
さらに、昔ながらの急な階段も、上り下りしやすいよう緩やかな階段へ作り直しました。
用途は当初仕事部屋なども考えていましたが、現在は特に決めていません。
むしろ2階そのものが、
「古い建物を活かしながら、ここまで変えられる」
という古民家改修の見本になっています。
家の次は、庭づくり
建物がある程度形になったところで、次に始めたのが庭づくりでした。
敷地の高低差を考えながら外周に基礎を作り、フェンスを設置。
人工芝を敷き、桜や薔薇を植え、最終的にはドッグランのある庭になりました。
最初は20cm傾き、床下には水が流れていた古民家。
それが少しずつ手を加えることで、外観は新築のようになり、庭には緑と花、そして犬たちが走れる場所までできました。
この古民家で、本当に残したかったもの
振り返ってみると、この改修で一番大きかったのは、綺麗な家ができたことだけではありません。
コロナ禍で仕事が少ない時期にも、若い社員たちをただ休ませるのではなく、実際の建物を教材にして、建設業のさまざまな仕事を経験させることができたこと。
基礎、大工、屋根、外装、内装、設備――。
自分の専門以外の仕事を実際に経験することで、
「自分の仕事が、建物全体の中でどうつながっているのか」
を知ることができます。
会社に余裕があったわけではありません。
借金をしながらでも仕事を作り、若い人たちに経験を積ませました。
この古民家は、建物を再生する場所であると同時に、人を育てる場所でもありました。
そして今、ようやく1階の使い道が見つかった
実は、この古民家はまだ完成していません。
特に1階は、「最終的に何に使うのか」が決まらないまま、長い間どこか中途半端な状態で残っていました。
でも今になって、ようやく使い道が見えてきました。
エポキシレジンの作業場、そして実物を見てもらえる展示場です。
床、キッチン、トイレ、風呂、壁やカウンター。
さまざまな場所に違ったレジン施工を施せば、単にサンプルを並べるだけではなく、実際の建物の中で、レジンが建築にどう使えるのかを見て、触れて、体感できる場所にできます。
もしかすると、今まで1階が中途半端なままだったのは、
このためだったのかもしれません。
2階には、古民家改修の醍醐味を。
1階には、レジンがつくるこれからの建築の可能性を。
5万円から始まった小国の古民家。
この建物の物語は、まだ終わっていません。
これからレジンによって、もう一度生まれ変わります。